色とりどりの砂で描かれた美しい印と、家々に灯るオイルランプの明かり。幻想的な晩秋の風景がそこに広がります。
「待って!マーラーをつけたいのに~!」
少女のその声に振り返る間もなく、私の真横を一匹の犬が駆け抜けていきました。犬の額にはピンク色の粉でティカがつけられています。
本日はククル・ティハール。犬をお祭りする日、ということは知っていたけど…そうか、犬にもマーラー(マリーゴールドの花輪)をつけてやらないといけないのか…なんてことを考えつつ、女の子の背中を見送った記憶がよみがえります。
ティハールは5日間つづく(※)秋のお祭り。そのうち1日は豊穣の女神ラクシュミを家にお招きする日が設けられており、家の繁栄を願う明るく華やかな面がよく取り上げられます。この期間に合わせてネパールを訪問する旅行者も多く(例年であれば)、街もなんだかうきうきとした空気に包まれる時期です。
今日はその起源を紐解いてみましょう。ティハールにはヤマ(のちに仏教に入ると閻魔と呼ばれるようになりました)とその妹ヤミ(ヤムナ)の物語が深くかかわっているのです。
ヤマが先に亡くなったあと、ヤミは深い悲しみに包まれ、来る日も来る日も泣き暮らします。彼女はヤマ恋しさのあまりカラスに伝言を託しました。「私に会いに来てほしい」と。カラスは冥界の使者であり、死の知らせは朝届く…と言われているため、その伝承になぞらえて早朝にカラスへの捧げものを用意するのが、お祭りの第1日目。
そして、カラスの次にヤミが頼ったのは犬でした。死者は死後、ヤマのところで暮らしている自分の祖先のところへ行くために、ヤマの犬の前をいそいで通り過ぎないといけない…という謂れがあるのです。(タロットでも月のカードで犬が門番の役目をしていますね)この他にも「犬は危険を察知する能力をもつから」など諸説ありますが、第2日は犬をおまつりする日、とされています。
第3日目以降は祭日となっており、多くのオフィスや学校はお休み。この日は我々にミルクをもたらしてくれるガイ(雌牛)を祝福したのち、夜にはラクシュミを家々に招くラクシュミプジャを行います。
第4日は雄牛を祀る「ゴヴァルダンプジャ」の日。いずれの手を尽くしても愛するヤマに会えないヤミは、とうとう自分が雄牛に乗って、死後の世界へと旅立つのです。
最終日は「バイ・ティカ」の1日。苦難の末、ヤミがヤマに再会できたことを祝う日であるとともに、兄弟姉妹の健康長寿を願う日です。「バイ」とは一般的に年下の男性を指す呼称。(年上の男性には「ダイ」と呼びかけます)この日、女性は自分の男兄弟の腕に「ラーキー」と呼ばれるブレスレットを結び、ティカをつけてあげ、男性側はそのお返しに姉妹へプレゼントを贈ります。
※その年によって日数が異なることもあります。2020年は11月13~16日までの4日間です。